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高松高等裁判所 平成2年(ラ)51号 決定

抗告人

福井孝則

右代理人弁護士

堀井茂

相手方

マルフク事業協同組合

右代表者代表理事

出海定幸

主文

本件抗告を却下する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は、要するに、抗告人は、本件電話加入権に根質権設定契約を締結したことはないから質権は存在しないので、民事執行法(以下「法」という。)一九三条二項、一四五条五項により原裁判(電話加入権差押え及び換価命令)の取消しを求めるというにある。

そこで、本件抗告の適否について判断する。

法は、民事執行に関する不服申立ての方法として、執行抗告と執行異議の二つを規定し、執行抗告は、民事執行の手続に関する裁判のうち法の特別の定めがある場合に限って許される(法一〇条一項)ものとし、執行異議は、執行裁判所の執行処分で執行抗告をすることができないものに対してのみ許される(法一一条一項)として、執行抗告と執行異議のできる場合を分け、両者を重畳的に行使することができない立前をとっている。しかるに、債権その他の財産権並びに電話加入権を目的とする担保権の実行としての差押命令に対する不服申立てに関しては、法一九三条二項は、債権及びその他の財産権に対する強制執行としての差押命令に対し執行抗告を許す旨を定めた法一四五条五項の規定を準用するとともに、担保権の実行としての不動産競売の開始決定に対して執行異議の申立てをすることができるとする法一八二条の規定を準用しているので、担保権実行の差押え命令に対しては例外的に執行抗告と執行異議の二通りの不服申立てを許しているものと認めざるを得ない。そしてこの両者の関係がどのようになるのかについて法は明文の規定を設けていないが、当裁判所は、執行抗告は専ら手続上の瑕疵を理由とするものについてのみ許され、担保権の不存在又は消滅についての実体上の事由を理由とするものについては専ら執行異議によるべきものと解する。その理由は、次のとおりである。法一八一条は、担保権実行による不動産競売につき担保権の存在することを証明する確定判決、家事審判、公正証書又は担保権の登記のされている登記簿の各謄本が提出されたときに限り開始するものと規定しているが、これは、担保権の存在の証拠方法(証明資料)を決定したものであって、担保権の実行に当たっては、その実行すべき担保権が存在しなければならないことは理の当然である。したがって、たとえ右法定文書が提出されたことにより担保権が存在することが証明されたとして競売開始決定がされても(右法定文書が提出されれば、担保権の存在が一応証明されたものとして開始決定をすることになる。)、債務者らが担保権の不存在を主張し反証をあげることにより担保権の存在が証明されないことになった場合においては、一旦された競売開始決定は取り消さなければならないこととなる。そうであれば、競売開始決定に対する不服申立てにおいて、担保権の不存在等の実体上の事由が主張された場合においては、執行裁判所において立証を促し前記法定文書によって、一応証明された担保権が真実存在するものか否かについて審理されなければならないものであるから、右のような実体上の事由に基づく不服申立ては執行裁判所に向けられた執行異議によるのが相当であり、執行抗告により抗告裁判所においていきなり審理すべきものとするのは相当ではない。右の解釈は、法一八二条の「不動産競売の開始決定に対する執行異議の申立てにおいては、担保権の不存在又は消滅を理由とすることができる。」との文意にもかなうものである。

すなわち、法一九三条二項が、債権及びその他の財産権についての担保権の実行の場合に、強制執行の場合に関する一四五条五項の執行抗告の規定を準用したのは、専ら手続上の瑕疵を理由とするものについてのみこれを認めた趣旨であって、担保権の不存在又は消滅という実体上の事由を理由とするものについて認めたものではないと解すべきである。

二よって、質権の不存在を理由とする本件執行抗告は不適法であるからこれを却下し、抗告費用は抗告人に負担させることにして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官安國種彦 裁判官山口茂一 裁判官井上郁夫)

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